蛇淫/中上健次

蛇淫 (講談社文芸文庫)最近親殺しのニュースをよく聞く。この本の表題作「蛇淫」も親殺しの話。映画「青春の殺人者」の原作。映画も凄かった。尊属殺人の心理って、愛情とその逆ベクトルの分の憎しみと劣等感とか、いろいろ混じって起こるのかなって思う。前にこの日記に書いた、岡山のバットの少年も、「迷惑かけたくないから殺す」って考え方というか価値観はやっぱり歪んでると思うし。でも、歪んでることに気付いてたら殺さなかったのかな。
短編集で、表題作の他にも良い作品ばかりで、中でも私は「雲山」が好きだった。子どもが死んでしまった夫婦の会話で、男が「子供一人殺してしもた」と言うと、女は「しょうない。病気だったんやないの。また産んだらええやないの。わたしかて若い。あんたが欲しと言うなら何人でも産んだる」と言う場面が印象深かった。道徳的におかしいとかおいておけば、こんな励まし方するなんて、最高の女というかメスかもしれないと思った。こういう動物的な逞しさのある女性は憧れる。